燦々と降り注ぐ朝日が眩しい。館の窓を開けると、鬱蒼と茂る緑が目に飛び込んできた。少し奥まった場所にある此処は、木で覆われた世界の中でも一際葉の香りが濃い。ひどく、懐かしい匂いだ。森に居た頃を思い出す。そんなに昔のことでもないくせに、それは既にとても遠い世界だった。楽しいことばかりは連れてこない世界。
アクスヘイムの整った町並みに慣れきっていたせいか、久しぶりに感じる近しい場所が、ただ無言で自分を責めてくるような―そんな気がするのだ。考え過ぎている気は、するのだが。はあ、と溜息を一つ、起き上ったばかりのベッドにうつ伏せに飛び込んだ。
エルフヘイムに来てから、一か月も過ぎた。アクスヘイムにあったのと似た内装の館を知り合い伝手で安く借りることが出来、そちらに皆と移り住むことにした。こちらでの仕事を探しながらふらふらしつつも町に溶け込み始め、ようやく知らない土地での緊張のようなものが解けてきた頃だ。世間はレジスタンスと都市警備隊との対立構造が浮き彫りになりつつも、恐らく棘(ソーン)による不可解な事件が続いている。まだどれにも手を出せないでいるが、そろそろどちらにつくべきか考えるべきだろう。どちらの方がより面白いだろうか、そんな考え方をしてしまう自分に呆れ半分、けれど安堵してしまう。いつかのように感情的になることの方が、自分らしくない。
ふと視線を上げると、コッコがベッドの直ぐ下でこちらを見て首を傾げるところだった。コケ、と小さく鳴くのにときめいておいでと言ったらぷいと尾を向けられる。振られてしまった。苦笑して、再び寝転がる。
目を瞑ると、あの森の中一人でいるような、そんな気分になった。
「エルフヘイムに行く、よ」
「そうかい」
あれはそう、アクスヘイムを発つ数日前の話だ。
そんな気はしてたんだ、と彼が笑うと、何故だか急に、とてもとても寂しくなった。アクスヘイムに来て半年と少し。館と便利屋の他で築いた人間関係はそれ程多くは無かったけれど、この酒場の店主とは出会い方からして衝撃で、それから沢山の話をして親しくなった。それがもうすぐ出来なくなるのだと思うと、言葉では言い表せないやるせなさや、切なさが襲ってくる。
それでもティノルは此処から、アクスヘイムから、去る。
「エンドブレイカー、だっけか。あっちこっちの都市国家にまで駆けつけなきゃならないたあ、難儀なことだな」
「しょうがないよ。それは僕たち共通の性なんだ。」
エンドブレイカーは、終焉を叩きつぶさずにはいられない。
逆に言うなら、そういった衝動が起こらないだろう人に、この能力は授からないのだろう。だからこそ同じ力を持つ仲間の事は信用が出来る、と感じるのだ。彼らの性格や信義がどうであれ、結束して動く時ならば、皆同じ方向に向かっていける。
だからこそ、この先を見たいと感じることが出来るのだ。
レモン・スカッシュが並々と注がれたコップを口につけて、その味を堪能する。そこらで売られている既製品とは違う、きちんと新鮮なレモンを絞って、それを特別なソーダで割っている。この間飲んだジンジャー・エールだって、そういう一つ一つが拘って作られているのだ。ティノルはこの店主の、そういう姿勢が好きだった。真摯に作られた物は、大抵等しく人を幸せにしてくれる。
この店はとても温かな場所だった。だから、気が緩み過ぎていたのかもしれない。
「そういやお前、親御さんとかに挨拶して来なくていいのか」
不意に店主が口にした言葉に、不自然に動きを止めてしまったことを後悔した。一瞬にして空気がぎこちなくなり、ただ黙って流し込んだ炭酸を飲み込むことに集中する。
ティノルは迷った。今まで“あのとき”以外、誰にも話したことはない。エンドブレイカ―の中にもそれぞれ暗く深い事情を重ねている人間は大勢いる。それを本人が言いたくないのであれば、訊かない。暗黙の了解だ。
今なら、言えるのだろうか。傷はどのくらい癒えている?
興味があった、だから息を吸った。口を開いて、炭酸で痺れた舌をゆっくりと動かす。
「父さんも母さんも、もういないんだ。墓もない。」
店主は何か言おうとして、口を閉ざした。それから、言う。
「悪い」
「ううん。全然」
にこりと笑ってみせると、店主はますます気まずい顔をした。恐らく、予想はしていたのだろう。自分は両親の話を一度として話したことは無いし、要因を幾つか重ねればなんとなく想像はつくことだ。
それから二人、またしばらく沈黙した。それからどちらともなく始めた雑談に、相槌を打ち、笑って、馬鹿を言い合って、また来るからという約束をして、別れた。
当てもなくふらりふらりと歩く街角で度すれ違う長い耳には、まだ慣れない。彼らは懐っこく、時折見ず知らずの自分にさえ気軽に挨拶をしてくれる。アクスヘイムの町だって活気に満ち、人々は皆陽気で優しかったが、赤の他人は他人であったし、本当に近い距離ですら無関係な顔をする、そんな場所に慣れていたせいか未だに戸惑うことばかりだ。
(なんだか、彼を思い出す)
転んだ所を助けてやった少年が、にこにことしながら飴玉をくれた。濃いオレンジ色をした不格好な星型は、舐めると蕩けるように甘かった。果肉がつまっているようで、噛む砕くたび溢れる果汁は爽やかなオレンジの味。それは徐々に口に満ちた甘さを中和していく。美味しいと零すと、彼は嬉しそうに一層笑みを濃くした。
純粋無垢な少年の笑みは守られるべきだ。それがけがれるのは寂しいことだ。
(だから、それをこわすものはこわされるべきだ)
なんて塞いだ考え方だろう。展望は見えない、何の進展性もないなんて非生産的な負の思考。
顔に等出したつもりはなかったのに少年が途端、眉を下げる。子供はどうしてこうも鋭いのだろう。慌てて笑って、その柔らかな髪を撫でた。
「ぼうず、この中だ」
比較的大きくて安定したその町に、領主が課した法はそれなりに厳しいものだ。現行犯で捕まったならすぐさま処刑されてしまう。それらは墓に入れられることもなければ、火葬されることさえない。火葬されるものは等しく神の下に帰ることが出来るから、神聖な我が父の御許に汚れた魂を登らすことは出来ないのだという考えを持った、この地方で大昔に流行った宗教の名残だと、聞いた。
「…どれが」
「どれかが、だ」
積まれた死体の山からは、酷い臭いがした。裸にされた肉体が乱雑に積み重なり、埋もれている物の中には形すらもわからないものもある。男も女もそこでは関係なかった。腐って肉の溶けた身体からは骨が覗き蛆虫が蠢き蠅が飛び回り、嫌な音が耳を撫でる。吐き気がした、正しく、吐き気がした。
墓守の男は頭まで覆った薄汚れた襤褸切れを口元にやって、げほげほと咳をした。白い髪は巻きつけたボロ布と同じように黄ばんでいて、その手には簡素な木で出来た年代物の杖があった。
「…嘘だ、」
思わず呟いて、墓守の真っ黒な手を縋るように掴んだ。彼は長い前髪から鋭い赤い目を覗かせてこちらに視線をくれた。それに思わず竦んでしまいながら、それでもその手を離すことが出来なかった。細くて枯れ木みたいに折れてしまいそうなその手はぶつぶつとしていて、ああ、こんなところにいたらそういう病気にかかったっておかしくないな、なんてぼんやりと考えた。かなしい話だけれど、こういう仕事はこの町では地位の低い人に任せてしまえるのだ。平和の名の下、人々が平和に暮らせるようにと。
「とうさんが、こんなところに、」
嘘だ、ともう一度呟いた。墓守の男は手を衣服で拭うと、僕の頭をぽんぽんと撫でた。場には似つかわしくない優しさだった。そしてそれは否定ではない。
お腹が痛かった。
涙は、出なかった。
コッコが騒ぐ音がして、目が覚めた。これだけ優秀な目覚ましもいないと思っていたのだけれど、何故だか空は真っ暗で、あれからすっかり眠り込んでしまったことを思い出した。涼しくなってきたというのに、肌には汗がびっしり浮かんでいて、そのくせ身体はとても冷たかった。
「…コッコどうしよう、僕今日夢見が最悪だよ」
騒ぐにわとりを抱き上げて落ち着かせながら、再びベッドにばふんと寝転がる。
正義の名の下、母を巻き込んだ事件。母を心の底から愛していた父をおかしくした、あの一件。
酒場を覗こうか、という気になった。レジスタンスの動きが最近激しいものだと聞いている。ハーフエルフを救いだす正義の集団。唐突に結ばれた糸に俄然興味が出た。
「何か面白いものが見つかればいいな」
ねーコッコ、とふさふさの身体を寝ころんだまま両腕一杯に掲げてにこりと笑うと、彼女は小首を傾げる。わかんないかーと残念に思いながらも、仕草にときめいて抱きしめた。ばたばたと暴れる羽音を気にせず、笑う。
笑う。
汗ばんだ肌を開け放したままだった窓から吹き込んだ冷たい風が粟立てた。
10月1日。この日が誰の何の日だったか、気付かないふりを、した。
アクスヘイムの整った町並みに慣れきっていたせいか、久しぶりに感じる近しい場所が、ただ無言で自分を責めてくるような―そんな気がするのだ。考え過ぎている気は、するのだが。はあ、と溜息を一つ、起き上ったばかりのベッドにうつ伏せに飛び込んだ。
エルフヘイムに来てから、一か月も過ぎた。アクスヘイムにあったのと似た内装の館を知り合い伝手で安く借りることが出来、そちらに皆と移り住むことにした。こちらでの仕事を探しながらふらふらしつつも町に溶け込み始め、ようやく知らない土地での緊張のようなものが解けてきた頃だ。世間はレジスタンスと都市警備隊との対立構造が浮き彫りになりつつも、恐らく棘(ソーン)による不可解な事件が続いている。まだどれにも手を出せないでいるが、そろそろどちらにつくべきか考えるべきだろう。どちらの方がより面白いだろうか、そんな考え方をしてしまう自分に呆れ半分、けれど安堵してしまう。いつかのように感情的になることの方が、自分らしくない。
ふと視線を上げると、コッコがベッドの直ぐ下でこちらを見て首を傾げるところだった。コケ、と小さく鳴くのにときめいておいでと言ったらぷいと尾を向けられる。振られてしまった。苦笑して、再び寝転がる。
目を瞑ると、あの森の中一人でいるような、そんな気分になった。
***
「エルフヘイムに行く、よ」
「そうかい」
あれはそう、アクスヘイムを発つ数日前の話だ。
そんな気はしてたんだ、と彼が笑うと、何故だか急に、とてもとても寂しくなった。アクスヘイムに来て半年と少し。館と便利屋の他で築いた人間関係はそれ程多くは無かったけれど、この酒場の店主とは出会い方からして衝撃で、それから沢山の話をして親しくなった。それがもうすぐ出来なくなるのだと思うと、言葉では言い表せないやるせなさや、切なさが襲ってくる。
それでもティノルは此処から、アクスヘイムから、去る。
「エンドブレイカー、だっけか。あっちこっちの都市国家にまで駆けつけなきゃならないたあ、難儀なことだな」
「しょうがないよ。それは僕たち共通の性なんだ。」
エンドブレイカーは、終焉を叩きつぶさずにはいられない。
逆に言うなら、そういった衝動が起こらないだろう人に、この能力は授からないのだろう。だからこそ同じ力を持つ仲間の事は信用が出来る、と感じるのだ。彼らの性格や信義がどうであれ、結束して動く時ならば、皆同じ方向に向かっていける。
だからこそ、この先を見たいと感じることが出来るのだ。
レモン・スカッシュが並々と注がれたコップを口につけて、その味を堪能する。そこらで売られている既製品とは違う、きちんと新鮮なレモンを絞って、それを特別なソーダで割っている。この間飲んだジンジャー・エールだって、そういう一つ一つが拘って作られているのだ。ティノルはこの店主の、そういう姿勢が好きだった。真摯に作られた物は、大抵等しく人を幸せにしてくれる。
この店はとても温かな場所だった。だから、気が緩み過ぎていたのかもしれない。
「そういやお前、親御さんとかに挨拶して来なくていいのか」
不意に店主が口にした言葉に、不自然に動きを止めてしまったことを後悔した。一瞬にして空気がぎこちなくなり、ただ黙って流し込んだ炭酸を飲み込むことに集中する。
ティノルは迷った。今まで“あのとき”以外、誰にも話したことはない。エンドブレイカ―の中にもそれぞれ暗く深い事情を重ねている人間は大勢いる。それを本人が言いたくないのであれば、訊かない。暗黙の了解だ。
今なら、言えるのだろうか。傷はどのくらい癒えている?
興味があった、だから息を吸った。口を開いて、炭酸で痺れた舌をゆっくりと動かす。
「父さんも母さんも、もういないんだ。墓もない。」
店主は何か言おうとして、口を閉ざした。それから、言う。
「悪い」
「ううん。全然」
にこりと笑ってみせると、店主はますます気まずい顔をした。恐らく、予想はしていたのだろう。自分は両親の話を一度として話したことは無いし、要因を幾つか重ねればなんとなく想像はつくことだ。
それから二人、またしばらく沈黙した。それからどちらともなく始めた雑談に、相槌を打ち、笑って、馬鹿を言い合って、また来るからという約束をして、別れた。
***
当てもなくふらりふらりと歩く街角で度すれ違う長い耳には、まだ慣れない。彼らは懐っこく、時折見ず知らずの自分にさえ気軽に挨拶をしてくれる。アクスヘイムの町だって活気に満ち、人々は皆陽気で優しかったが、赤の他人は他人であったし、本当に近い距離ですら無関係な顔をする、そんな場所に慣れていたせいか未だに戸惑うことばかりだ。
(なんだか、彼を思い出す)
転んだ所を助けてやった少年が、にこにことしながら飴玉をくれた。濃いオレンジ色をした不格好な星型は、舐めると蕩けるように甘かった。果肉がつまっているようで、噛む砕くたび溢れる果汁は爽やかなオレンジの味。それは徐々に口に満ちた甘さを中和していく。美味しいと零すと、彼は嬉しそうに一層笑みを濃くした。
純粋無垢な少年の笑みは守られるべきだ。それがけがれるのは寂しいことだ。
(だから、それをこわすものはこわされるべきだ)
なんて塞いだ考え方だろう。展望は見えない、何の進展性もないなんて非生産的な負の思考。
顔に等出したつもりはなかったのに少年が途端、眉を下げる。子供はどうしてこうも鋭いのだろう。慌てて笑って、その柔らかな髪を撫でた。
***
「ぼうず、この中だ」
比較的大きくて安定したその町に、領主が課した法はそれなりに厳しいものだ。現行犯で捕まったならすぐさま処刑されてしまう。それらは墓に入れられることもなければ、火葬されることさえない。火葬されるものは等しく神の下に帰ることが出来るから、神聖な我が父の御許に汚れた魂を登らすことは出来ないのだという考えを持った、この地方で大昔に流行った宗教の名残だと、聞いた。
「…どれが」
「どれかが、だ」
積まれた死体の山からは、酷い臭いがした。裸にされた肉体が乱雑に積み重なり、埋もれている物の中には形すらもわからないものもある。男も女もそこでは関係なかった。腐って肉の溶けた身体からは骨が覗き蛆虫が蠢き蠅が飛び回り、嫌な音が耳を撫でる。吐き気がした、正しく、吐き気がした。
墓守の男は頭まで覆った薄汚れた襤褸切れを口元にやって、げほげほと咳をした。白い髪は巻きつけたボロ布と同じように黄ばんでいて、その手には簡素な木で出来た年代物の杖があった。
「…嘘だ、」
思わず呟いて、墓守の真っ黒な手を縋るように掴んだ。彼は長い前髪から鋭い赤い目を覗かせてこちらに視線をくれた。それに思わず竦んでしまいながら、それでもその手を離すことが出来なかった。細くて枯れ木みたいに折れてしまいそうなその手はぶつぶつとしていて、ああ、こんなところにいたらそういう病気にかかったっておかしくないな、なんてぼんやりと考えた。かなしい話だけれど、こういう仕事はこの町では地位の低い人に任せてしまえるのだ。平和の名の下、人々が平和に暮らせるようにと。
「とうさんが、こんなところに、」
嘘だ、ともう一度呟いた。墓守の男は手を衣服で拭うと、僕の頭をぽんぽんと撫でた。場には似つかわしくない優しさだった。そしてそれは否定ではない。
お腹が痛かった。
涙は、出なかった。
***
やあ父さん元気かい。
寂しくはない?辛くはない?
ああ父さん、あの時貴方の顔を見ることを躊躇った僕を許して。
…約束も果たせなかった。ごめんね、出来の悪い息子でごめんね。
でも安心して、僕はずっとあなたのために生きるから。
だから大丈夫。
大丈夫だよ。
約束はいつか必ず。あなたが出来なかったことは、僕がやるから。
…父さん、聞こえてる?
僕ね、友達が出来たよ。いい人たちばっかりなんだ。
料理もお菓子作りも、今でも大好きだよ。
紅茶、母さんが好きだったね。僕も好きだ、今でも。
ねえ褒めて、父さん。いつものように、いつかのように。
父さん、
父さん…?
……
…
寂しくはない?辛くはない?
ああ父さん、あの時貴方の顔を見ることを躊躇った僕を許して。
…約束も果たせなかった。ごめんね、出来の悪い息子でごめんね。
でも安心して、僕はずっとあなたのために生きるから。
だから大丈夫。
大丈夫だよ。
約束はいつか必ず。あなたが出来なかったことは、僕がやるから。
…父さん、聞こえてる?
僕ね、友達が出来たよ。いい人たちばっかりなんだ。
料理もお菓子作りも、今でも大好きだよ。
紅茶、母さんが好きだったね。僕も好きだ、今でも。
ねえ褒めて、父さん。いつものように、いつかのように。
父さん、
父さん…?
……
…
***
コッコが騒ぐ音がして、目が覚めた。これだけ優秀な目覚ましもいないと思っていたのだけれど、何故だか空は真っ暗で、あれからすっかり眠り込んでしまったことを思い出した。涼しくなってきたというのに、肌には汗がびっしり浮かんでいて、そのくせ身体はとても冷たかった。
「…コッコどうしよう、僕今日夢見が最悪だよ」
騒ぐにわとりを抱き上げて落ち着かせながら、再びベッドにばふんと寝転がる。
正義の名の下、母を巻き込んだ事件。母を心の底から愛していた父をおかしくした、あの一件。
酒場を覗こうか、という気になった。レジスタンスの動きが最近激しいものだと聞いている。ハーフエルフを救いだす正義の集団。唐突に結ばれた糸に俄然興味が出た。
「何か面白いものが見つかればいいな」
ねーコッコ、とふさふさの身体を寝ころんだまま両腕一杯に掲げてにこりと笑うと、彼女は小首を傾げる。わかんないかーと残念に思いながらも、仕草にときめいて抱きしめた。ばたばたと暴れる羽音を気にせず、笑う。
笑う。
汗ばんだ肌を開け放したままだった窓から吹き込んだ冷たい風が粟立てた。
10月1日。この日が誰の何の日だったか、気付かないふりを、した。
PR
COMMENT